■魅力がいっぱい。でももリスクもいっぱいな「協会モデル」
一人でスクール業、講師業をしていた方が、成果をおさめ、人気が出てきたときに、次に考えるのが、後継者の養成です。
その際、選択肢に挙がるのが、いわゆる「協会モデル」です。
講師をやりたいという希望者を募り、スキルや知識、あるいはマインドセットといったことを教育し、クラスをお任せしていく。
一人でやっていた限界を超えて、多数の方にあなたのコンテンツを普及できる手段として、あるいは講師養成クラスという新たな収益モデルの創出手段として、協会の設立や講師認定制度の設置は、魅力的です。
一方、協会モデルには、リスクも付きまといます。
例を挙げると・・・
・認定した講師が、受講者を連れて独立してしまうリスク
・認定した講師が、思うように集客できないリスク
・認定した講師が、活動をしてくれないリスク
・認定した講師のスキルや人的魅力が低く、協会のブランドが毀損するリスク
・いつまでもあなたに受講者が集まってしまい、認定講師に人がつかないリスク
・認定した講師が、独自のカリキュラムで実施してしまい、統制が取れないリスク
・支払われるべきロイヤリティが支払われない。過少申告されてしまうリスク
等々。
これらは、おそらくご自身がどこかの協会に所属していたことがあれば、
「協会あるある」だと実感されていることでしょう。
それだけ、協会をうまく運営するということは難しいことと言えます。
これらを解決する手段はあるのでしょうか。
■カギはチーム作り
オンユアマーク井上が、様々な協会設立、拡大のご支援をしてきた結論としては、「協会制度がうまくいくカギはチーム作り」ということです。
「協会」同様にチームをつくるための組織体として、「会社」がありますが、「会社」がチーム作りのために行っている施策が、そのまま応用できると、私は考えています。
いわゆる「人事制度」にあたるものです。
以下、8つのポイントに分けて解説します。
①理念、ビジョン、行動規範を設定する
まず、協会の理念とビジョン、行動規範を策定します。
理念は「何のためにこの協会が存在するのか」ということです。
設立者ご自身が、なぜこのコンテンツを発案したのか。普及させたいのか。
その思いを言葉にします。
そのうえで、達成期限を決め数値化したものがビジョンです。
それぞれ、お題目ではなく、本気でそう思っていることが重要です。
この理念やビジョンはなんどもチームメンバーである講師や事務局の方々に伝え続けてしていくことになるためです。
繰り返し繰り返し伝えることで、本気度が伝わり、温度感が伝播して、チームが形成されて行きます。
そのうえで、行動規範をつくります。
行動規範は「この協会に所属するメンバーは、こんな行動様式をとるべき。」という行動の基準を示したものです。
有名な例では、百貨店の「ノードストロームウェイ」があります。
ノードストロームでは、「顧客第一=お客様にノーと言わない」を行動規範としています。
この行動規範から、次のような事例が生まれました。
ある時、お客様が靴を買いにいらしたものの、合うサイズの在庫が無かったそうです。
その際、応対した店員は、なんとライバル店に在庫照会して、合うものを探してお届けしたそうです。
そのお客様はどんな気持ちになったでしょうか。
その店舗、そのスタッフのファンになり、次に買う時もそこにこよう、と決めたであろうことは想像に難くないですよね。
このように、行動規範はその協会の理念を反映し、ある種の「人格」を形成して、顧客にブランドイメージを醸成する源泉となります。
行動規範はこのように、実際に機能してこそ意味があるものなので、
・行動につながるものであること。
・判断に迷う際に判断基準になるものであること
が重要です。
②認定(採用)基準を定める
次に講師認定の基準を決めます。
協会の中には、「講師認定コース」を大きな収益源としているために、「誰でもコースを受ければ即認定」という制度にしているところも少なくありません。
しかしながら、そうして講師を増やした結果、講師の質や活動意欲にばらつきが出て、結果統制が取れなくなっていく、ブランドが落ちていくことも多々あります。
そこで、「コース修了」と「講師認定」の概念を切り分け、講師認定のためにはきちんとした基準に従って審査をし、満たした方だけを認定するようにします。
これは、会社でいうところの「採用」と同じ概念です。
注意したいのは、見るべき観点です。
単にスキルだけ満たせばOKというわけではありません。
当社の理念に心から同意しているか、という共鳴度に関する部分や、そもそも気が合うか、のような部分も、大切だと私は考えます。
むしろ、スキル不足は後から補完できます。
根っこの部分で相性が良いかどうかのほうが、長期的に見れば重要ではないでしょうか。
③教育内容にスタンスやコンピテンシーを入れる
講師認定コースのカリキュラムについてです。
一般的には、普段ご自身が受講者に教えているコンテンツをベースに、その教え方までを範囲としているケースが多いと思います。
しかし私は、もう少し範囲を広げて、対人関係スキルやマネジメントなどのスキルについても教授する必要性を感じています。
たとえば受講者との関係性をうまく築いたり、あるいは新規集客で成果を上げたり、売上を適切に管理したりといったスキルは、
講師として独立を支援することを考えた場合、必須のスキルになりますよね。
そうした範囲までを協会の責任として教育するということが成功の秘訣だと、私は考えます。
その際に使える概念が「コンピテンシー」というものです。
これは、「成果を出す行動特性」と訳されます。
たとえば、「一度ダメでもあきらめない粘り強さ」といったことがこれに当てはまります。
こうしたコンピテンシーも含めてカリキュラムにできると、自立した 講師が育てられるのではないでしょうか。
④IDに沿った教育をする
講師認定コースのカリキュラムに関しては、長期にわたる教育になることもあるので、きちんとインストラクショナルデザイン(ID)に沿ったカリキュラム設計をし、動機づけと理解度確認をしながら教育していけると良いでしょう。
インストラクショナルデザインとは、教育設計技法のことです。
学問として米国で発祥し、日本にも翻訳本が入ってきています。
インストラクショナルデザインについて深く学びたい方は、アマゾンなどで書籍を検索してみてください。
⑤契約をしっかり結ぶ
認定講師とは、きちんと明文化された契約書を交わすことが大切です。
その中で、ロイヤリティなどの条件面を明確にすることも重要ですが、個人的には、相互の役割分担と、コンテンツの扱い方を確認することがポイントであると考えます。
たとえば、広報ブログの定期執筆や事務業務など、認定講師間で分担したいタスクなども盛り込むことで、「なるほど、こういうことも講師として求められているんだな」と役割認識をしていただくことができます。
⑥継続的な育成OJTを行う
多くの協会でやってしまいがちなのが、「釣った魚に餌をやらない」とばかりに、認定した講師を放置してしまうことです。
認定講師からすると、これから頑張ろう、というタイミングで協会から見放されたような気持ちになってしまい、離反の大きな原因になります。
スキル的にも、例えば集客的にも、認定されたばかりの講師にはまだまだ未熟な面もあるはず。
また、コンテンツが定期的にブラッシュアップされていくに従い、差分のアップデート教育をする必要性もあります。
そこで、認定講師に対して、定期的にフォローアップ教育を提供します。
集合講義をする方法もひとつですが、たとえばオンラインでサポートしたり、OJT(現場教育)や定期面談などをすることも有効です。
⑦評価制度をつくる
⑥の施策と合わせて実施すると良いのが、講師の評価制度を設けることです。
定期的に評価をし、フィードバックをしたり、報酬を提供したりします。
たとえば、講師に何段階かのランクを設け、ある基準をクリアするたびに、ランクアップをするような制度も考えられます。
ランクアップの際には、支払うロイヤリティの料率が優遇されるといった、実利的な評価も効果がありますが、ランクアップに連動して、肩書がついたり、提供するバッジの色が変化したりといった「非金銭的報酬」を設定するのも効果的です。
⑧自分の役割を変える
最後に、創立者であり、協会の長となる貴方自身の役割を変える必要があるという点がポイントになります。
認定講師を育てるために、貴方自身は、自分で講師をすることを止め、後任講師にどんどん任せていく必要があります。
多くの場合、貴方自身がトップ講師であり、タレントであり、集客力の源泉であるとおもいます。
そんな中で、自分が講師をすることを止めるのは非常に勇気のいることです。
しかしながら、いつまでも自分が最前線でやっていると、結局他の講師の集客を阻害することになってしまいかねません。
移行措置として、自身のクラスだけ単価を変える等の工夫をし、徐々に引き継いでいくようなプランもありえます。
しかし、協会を本気で大きくしていきたければ、やはりチームで役割分担をしていく、という発想も必要になるのです。
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